銀河天文学(7/14)の質問と回答

早いもので,このシリーズもとうとう最終回を迎えることに.


今回も添削なしの回答案がそのまま流れてしまいました.

しかも今回は,岡村さんバージョンが別に存在してたりして.

まさかの事態ですよ,ホントに(笑)


いや,岡村さんの意図はちゃんと文中に書いてあるのですが・・・,


「小野くん,そんなんじゃダメだよ,こうじゃなきゃ.」って,

みんなの前でダメだしされてる気が・・・(苦笑)

●質問


宇宙論パラメータは精密に決まったと書いてありましたが、
ダークエネルギーについても、その存在自体は疑うことが
できないくらいになっているのでしょうか。」

●回答(岡村)


これは大変重要な、しかも答えの難しい質問です。シニアな
天文学者でも人によってかなりニュアンスの違う答えが返って
来るのではないかと予想します。
というのは、「実験物理」という観点から見ると、磐石の
証明がなされているとは言えない事柄と私には思えるからです。
天文学的検証」という観点から見ても、まだ「ダークマター
に比べると検証の度合いが低いと思います。


従って、私は、「その存在自体は疑うことができないくらいに
なっている」とは考えていません。しかし、現時点での様々な
観測を整合的に説明するモデルとしては大変有力なものです。
しかも、それが正しいとすれば、物理学の根幹を揺るがすことに
なるのですから、理論と観測両面からその正否を検証すること
が現代の天文学の最大の課題の一つであることは間違いありま
せん。


この様な状況ですので、これについては以下にTAの小野君の
答えもそのまま載せてあります。みなさんも、いろいろな
文献を調べるなどして、自分はどう思うか考えて見て下さい。

●回答(小野)


間接的な観測によってダークエネルギーの「存在」は確定的に
なっていますが,直接検出したわけではありませんし,そもそも
正体が何なのかはまだわかっていませんから,十分に疑う余地は
あるのではないでしょうか.


一様等方宇宙モデルを特徴づける宇宙論パラメータは,ここ10年ほどの
観測の進歩により信頼性の高い,精密な測定が可能となりました.
宇宙論パラメータの決定法として有名なのは,宇宙マイクロ波背景放射
温度揺らぎを利用する方法と,Ia型超新星を利用する方法です.
前者からは,宇宙の空間曲率と物質総量がわかります.空間曲率が
わかると,エネルギー総量がわかるのですが,これらが一致していない
ことから,その差を埋めるだけの未知のエネルギー成分が存在することが
明らかになりました.それに対して後者からは,現在の宇宙が加速膨張
していることが示され,それを引き起こすエネルギー源が存在している
ことが明らかになりました.


ただし,これらはあくまでも間接的な存在の証明に過ぎません.そもそも,
ダークエネルギーとはいったい何なのかがまだわかっていないのです.
また,観測的性質もまだ十分に理解できているとは言えません(ダーク
エネルギーの状態方程式は時間変化するのか,など).詳細はよく知りませんが,
現状を古い学問体系に基づいてエーテルが導入された歴史と重ね,多次元
宇宙論などによってダークエネルギーの導入を必要としない理論構築を
試みている研究者もいるようです.


ダークエネルギーの正体を解明することは,素粒子物理と宇宙物理が分野の
壁を越えて互いに協力して取り組むべき,現代の最重要課題の一つなのだと
思います.