銀河天文学(6/23)の質問と回答

今回は,ある匿名希望さんが一人で4つも質問してくださいました.

岡村さんから質問用紙を受け取るとき,
「小野くん,これは勉強になるぞ!」って言われた(笑)

●質問1(匿名希望)


前回の講義でGini coefficientのことを言っていたと思うのですが,
調べてみても,どんなものかいまいち分かりません.
Gini coefficientは,morphology研究でどのように使われるんですか?

●回答


ジニ係数は,ローレンツ曲線を用いて定義される「不平等さ」の指標です.
銀河の定量分類では,天球面上の「明るさの分布の不平等さ」を表す指標
として用いられます.


ある天体の撮像データを考えます.
この撮像データでのその天体の全フラックスをAとします.また,その天体の
ピクセルに落ちるフラックスの値を小さい順に並べたとき,フラックスの
小さい方から割合x(0<=x<=1)のピクセルに含まれるフラックスの合計をB(x)と
します.そして,これらを用いてL(x)=B(x)/Aと定義するとき,関数L(x)は
ローレンツ曲線と呼ばれるものに相当します.


ジニ係数Gは「分布が一様な場合のローレンツ曲線y=xの下の面積に対する,
y=L(x)とy=xとで囲まれる部分の面積の比」として定義されます.つまり,
ローレンツ曲線L(x)を用いると,ジニ係数はその定義から次のようになります:

      1               1               1
G = (∫(x-L(x))dx)/(∫ xdx) = 1 - 2*∫ L(x)dx.
      0               0               0


たとえば,各ピクセルに落ちるフラックスの値が均等な場合,ローレンツ
曲線はL(x)=xとなりますからG=0です.一方,ある特定のピクセル
フラックスが集中している場合,ローレンツ曲線はxが1に近付くと急に
立ち上がりますから,Gは1に近くなります.


定量分類に用いられるこれとよく似たパラメータに,中心集中度が
あります.ただ,たとえば中心から外れた位置でフラックスがピークを
持つような銀河を定量パラメータで分類したい場合,中心集中度では
中心から外れた位置でピークを持っているという情報(非対称性や
非一様性など)が反映されにくくなります.これに対して,ジニ係数
用いた上記の方法を用いると,分布の偏り具合がその値を左右しますから,
非対称性や非一様性などを持つ形態の特徴をより正確に反映した値となる
と考えられます.この意味で,フラックスの天球面上分布の
不均一さを特徴づける指標として,ジニ係数は有用なのです.

●質問2(匿名希望)


galaxyのmass-metalicity relationを測るとき,楕円銀河は[Fe/H]を,
渦巻銀河は[O/H]を使っていましたが,なんか理由があるんですか?
Evolutionに関係あるんですか?

●回答


楕円銀河などの早期型銀河では星由来である金属(FeやMgなど)の吸収線が,
一方渦巻銀河ではガス由来である電離水素領域からの輝線([OII]やHαなど)
が観測しやすいからです.可能であれば,全銀河に対して同じ指標を用い
るべきなのでしょうが,それぞれ逆の観測は大変困難なため,やむを得ず
そのような方法が取られています(早期型銀河にはガスのないものが多いのです).
なお,ガスに含まれる金属量が多い場所で星が生まれると,その星に含まれ
る金属量は多くなりますから,定性的には両者には正の相関があります.


なお,このような関係が楕円銀河でも渦巻銀河でも普遍的に成り立って
いることは,銀河進化の観点において重要な観測的事実です.銀河進化
モデルの理論的研究では,この関係がちゃんと説明できるかどうかが
重要な鍵のひとつになっています.

●質問3(匿名希望)


Metallicity Gradientを測るとき,buldge成分が多い渦巻銀河だと
gradientは逆にならないんですか?

●回答


どのような問題意識の質問か完全には理解できていません。
bulgeとdiskの二つを比べているのでしょうか?その上で、
bulgeの方が先にできてdiskが後にできたので、bulgeより
diskのmetallicityが高いのではないかということでしょうか?
ところが、実は必ずしもbulgeの方がdiskよりmetallicityが
低いとは(少なくとも銀河系の場合は)言えません。むしろ両者
は同じくらいのmetalicityを持つのです。講義のChapter 2-7
の11枚目のスライドを見てください。


講義で話したmetallicty gradientは, それぞれの成分の
中でのgradientを指しています。渦巻銀河のbulgeから
diskへかけてmetallicityが変化するということを言っている
のではありません。講義で見せた渦巻銀河のデータはdiskの
部分についてのデータでした。


以下は、mettalicity gradientに関する基本的な考え方です。
ある場所での星形成が進んでいるほど,そこでの金属量の値は
大きくなります.星形成が進んでいるということは,より多くの
星がすでに超新星爆発などによって金属を周囲にまき散らして
いるということだからです.銀河における金属量勾配は,定性的には
このように星形成の進み具合で説明することができます.

●質問4(匿名希望)


まだ分かってないかもしれませんが,どうして渦巻銀河と楕円銀河
τ_s,τ_inがこんなに違うんですか?

●回答


渦巻銀河と楕円銀河では,観測的性質が異なるからです.
「どうしてこんなに違うのか」ということですが、「こんなに
違う値にしないと現在観測されている両者の違いを説明できな
いから」というのがより直接的な答えです。


「6月16日の質問と答え」でも触れましたが,おおざっぱにまとめると,
早期型(楕円銀河やS0銀河)から晩期型(渦巻銀河)になるにつれて,
暗く(質量が小さく),青く(新しい星の割合が高く),中性水素ガスが
多く(星形成の材料が多く),重元素量が少ない(星形成が十分に進んで
いない),などといった傾向があることが観測的にわかっています.


τ_s,τ_inはそれぞれ銀河進化モデルを特徴づけるパラメータで,前者は
星生成の,後者はハローからのガス降着のタイムスケールを表しています.
そして,銀河進化モデルで楕円銀河や渦巻銀河を記述する場合,上記のような
観測的性質をうまく説明できるようなパラメータ(τ_s,τ_inなど)が
選ばれることになります.楕円銀河はすでに星形成が十分に進んでいますから,
星形成のタイムスケールは短く,材料となるガスが十分に早く落ちてこれる
ようガス降着のタイムスケールも短い値が,より正しく観測事実を再現するもの
として選ばれます.一方で,渦巻銀河は新しい星の割合が高く星形成活動が
まだ行なわれていますから,星形成のタイムスケールもガス降着のタイム
スケールも長い値が選ばれる,というわけです.